「毛玉ができないカシミヤセーターを作りたい・・・」

LeCENT(レセント)はカシミヤ、麻、海島綿、シルクなど天然素材を使った高級ニットのブランドです。

詳しくはホームページをご覧ください。林田株式会社|LeCENT (e-hayashida.co.jp)

 

軽くて暖かい、肌触りが抜群のカシミヤセーターにも、欠点はあります。その代表的なものの一つが「毛玉ができやすい」ということでしょう。

カシミヤセーターは、LeCENTを代表する看板商品群ですので、なんとかこの欠点を克服し、「毛玉ができないカシミヤセーターを作れないか」と、試行錯誤をしてきました。今日はそれについての当社の品質向上への熱意と試行錯誤の歴史をご紹介します。

 

1991年に、当社二代目社長で現会長の林田俊郎が、「毛玉(ピリング)が発生しないカシミヤニットを開発したい」との願いから、当時バイオサイエンスの研究が盛んだった東京農業大学を訪ね、「産学共同で絨毛のピリングを防ぐ研究をしたい」と相談を持ち掛けました。そして、私財1億5千万円を基金として大学に拠出し、学内に「林田絨毛研究室」という研究拠点を設け、産学協同プロジェクトを発足させました。

研究の結果、1993年に有効な2種類の酵素を発見し、それを縮絨加工(洗い工程)の際に使用すると、ピリング試験で2.5級という値が出ました。通常、カシミヤニット製品のピリング検査では、1〜2級程度しか取れないので、「有効性あり」と検査機関からお墨付きをいただきました。

しかし当時、当社の熟練職人が作るカシミヤ定番ニットのピリング検査では、すでに2.5級を取得していました。長年の経験によって、最適とされる度目調整による編立と縮絨によって、ピリングの起きにくい製品を作ることができていました。もちろん、LeCENTが使用するカシミヤの原料の質と、それを紡績する際の撚り回数や糸の均一性なども関係しているのですが、いずれにしろ酵素を使用して製造した検査結果が、未使用のものと同レベルであれば、酵素を使用する意味がないので、酵素の量を増やしたり、縮絨時間を調節したりして3級以上(※)の結果を得ようと研究をつづけました。しかし、抗ピリング性を高めようとすると、製品の別の価値を損ねてしまうジレンマに陥りました。抗ピリング加工に限らず、ウオッシャブル加工などもそうですが、後加工によって製品に機能性を付加しようとすると、カシミヤ製品の一番の売りである風合いを損ねてしまうという、二律背反の関係がネックになりました。そのような理由から、欧州の高級ブランドは、カシミヤの中でも上質な原料を使用する高額商品では、後加工しないことがほとんどです。

結局、「林田絨毛研究室」は、それ以上の成果を出すことができず、1994年に研究プロジェクトを終了しました。当社製品に当時「有効性あり」とされた酵素は一度も使われることなく、今も長年培った製造技術を継承して、ピリングの起きにくい製品を作り続けています。

(※)検査機関で3級以上は合格とされ、それ以下の数値の場合、製品を販売する際、デメリット表示(たとえば、「本製品は製品の特性上、ピリングが発生いたします」などの表示)をつける必要があります。当社も含め、カシミヤ製品のほとんどはピリング試験が3級未満であり、ほとんどの製品にデメリット表示がされています。